日時:2012年3月3日(土) 
場所:長崎大学医学部保健学科101講義室

  2011年度の卒後セミナーのテーマは「脳卒中リハビリテーション」です。特別講演には畿央大学健康科学部理学療法学科の松尾篤先生をお迎えし、「脳卒中リハビリテーションのStandardと最近のTopics」について、ご講演をいただきました。司会は、長崎北病院総合リハビリテーション部の原田直樹先生(6期生)と、長崎記念病院リハビリテーション部の片岡英樹先生(14期生)です。 

  講演では、最初に、「Evidence based Rehabilitation」に関して、臨床判断を行うための方法論であることを踏まえて、海外の最新の臨床研究をご紹介頂きました。急性期から妥当な機能的予後を予測した上で適切な治療を選択するためには、脳卒中発症後早期(5日以内)のBarthel Index・座位能力・麻痺側下肢の筋収縮などの評価も重要であるというデータもお示し頂きました。松尾先生は、最新で,かつ簡単にアクセスできる「Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation」(根拠に基づく脳卒中リハビリテーションのレビュー)の日本語版を作成し,日本人セラピストにとって臨床還元しやすい情報源を提供されています。患者さんにとって有益なリハビリテーション介入の根拠について常に最新の情報を得ることの大切さを、今回のご講演を通して強調されていたように感じます。
   次に、脳卒中リハビリテーションの重要事項として、「治療量(=Dose dependant)」に関して、練習回数と自発的使用の関係のデータをご紹介いただきました。日頃の臨床の中で、機能回復のために必要な神経学的変化を引き起こすのに十分な負荷・回数を与えているのか、いかにして一日の中で、リハ以外の時間も含めて患肢を使用する回数・頻度を工夫するかということを再考させられました。また、脳卒中リハビリテーションの治療方法として、「Constraint-induced movement therapy(CI治療)」や「課題志向型訓練」の有効性について、上肢運動機能・パフォーマンスの変化のみならず、灰白質の変化など、様々なデータをお示しいただきました。さらに、病期別(急性期・回復期・維持期)のリハビリテーションにおいて、各病期で推奨されるべき事項と方法についても、最新の研究を交えて分かりやすくご提示いただきました。病態や脳の各部位の活動も踏まえて、各病期に患者さんにとって適切な「治療量」や「課題難易度」を設定していくことなど、今後の臨床にとって参加者それぞれに得るものが大きかったのではと思います。関西出身の松尾先生のユーモア溢れる語り口、非常に楽しいご講演の中で、あっという間に時間が過ぎていきました。 
   最後には、最近のトピックスとして、TMSやtDCSといった非侵襲脳刺激についてご紹介いただき、まだまだ私たちの興味も尽きない中、松尾先生のご講演は終了しました。「明日からon the job training !!」松尾先生から私たちへのメッセージが印象的でした。

  セミナー後半のシンポジウムでは、熊本機能病院リハビリテーション科の大久保智明先生(7期生)と十善会病院リハビリテーション部の清水章宏先生(17期生)から脳卒中症例に対する理学療法について発表していただきました。シンポジウム司会は特別講演に引き続き原田先生と片岡先生です。 
   大久保先生からは「熊本機能病院総合リハビリテーションセンターの脳卒中介入戦略」について、全ての空間・時間において適切な姿勢や四肢アライメントでの運動療法を実施するための具体的な介入方法をご紹介いただきました。画像所見に基づいた予後予測からの介入方法、運動療法の成果を病棟での生活場面や環境に反映させることも重視し、「治療量」を上げる工夫をされているように感じました。清水先生からは「脳卒中急性期の理学療法」について、急性期の症例を通して病型や症候の重症度に応じたリスク管理および具体的な全身状態の調整や廃用予防、早期離床の方法などをご紹介いただき、脳卒中急性期の理学療法や急性期から回復期への回復過程を勉強することができました。脳損傷後の脳機能回復のメカニズムを阻害しないように、脳にとって簡単な運動から開始するということも配慮されていました。お二人の先生ともに、症例の動画もご提示いただき、リハ効果・動作の変化を実感できました。

シンポジウムの最後には、貴重な脳卒中症例を提示していただいた大久保先生、清水先生、アドバイザーの松尾先生と、会場との活発な意見交換もあり大盛況の中、充実したセミナーが終了しました。今年度の卒後セミナーは、脳卒中リハビリテーションに関して、急性期・回復期・維持期それぞれにおいて、病態や脳損傷の回復過程を考慮して刺激入力の「量」や「方法」「課題難易度」「開始時期」などを考える良い機会になり、また常に最新の情報をアップデートして理学療法を提供していくことを再認識させられる有意義な内容であったと思います。またの機会にぜひ、松尾先生をお招きしてこのようなシンポジウムが開催できる日を楽しみにしています。今回の卒後セミナーの内容は、理学療法探求第15巻に掲載される予定です。(文責:広報部 下迫 淳平)