日時:2011年3月19日(土) 
場所:長崎大学医学部保健学科101講義室

 2010年度の卒後セミナーのテーマは「廃用症候群に対する理学療法を再考する」です。特別講演には星城大学リハビリテーション学部教授の大川裕行先生をお迎えし、「廃用症候群に対する理学療法」について、ご講演をいただきました。司会は、長崎大学医学部保健学科理学療法学専攻教授の沖田実先生(2期生)です。

 講演では、最初に、宇宙飛行士やベッドレスト実験、脊髄損傷患者(車椅子マラソン選手)などの実例を交えながら、重力や起立負荷、運動負荷の重要性について大変分かりやすく、興味深いお話をご紹介頂きました。また、「PTは立てない患者さんを立たせることができる唯一の職種」であり、「廃用症候群はリハ室のベッドでも作られる」ということを繰り返し強調されながら、私たちが日頃の臨床で患者さんに提供している運動療法を再考し、局所ではなく全身を診て運動負荷をいかに工夫して与えていくかという基本を改めて認識するよい機会を頂いたのではと思います。臨床の中で簡便に運動強度を確認する指標として、心拍数をチェックすることは分かっていながらもなかなか実践できているPTが少ないこと、早期から起立・歩行練習を行うことの大切さなど、身の引き締まる思いで、大川先生の熱弁に聴き入っていた参加者の方も多かったようです。後半には、上肢運動負荷の効果について、脊髄損傷患者の麻痺域の血流への影響や、THA術後患者の最大酸素摂取量への影響など、大変興味深いデータもお示しいただき、「全身を診て廃用症候群を予防する」という原則を様々な視点で考えることができ、今後の臨床にとって参加者それぞれに得るものが大きかったのではと思います。最初から最後まで、引き込まれる楽しいご講演の中で、あっという間に時間が過ぎていきました。

 セミナー後半のシンポジウムでは長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(新興感染症病態制御学系専攻)の花田匡利先生(長崎大学病院)と13期生の武藤晶子先生(長崎北病院)から「廃用症候群への取り組み」について発表していただきました。シンポジウム司会は7期生の西本加奈先生(長崎北病院・同門会学術部長)です。花田先生からは急性期における呼吸・循環動態を考慮した早期離床について、重症患者を通して離床時の問題点、病態や治療経過を十分に把握した上でのリスク管理および具体的な対応方法についてご紹介いただき、会員の先生方が普段なかなか経験できない重症例への理学療法を勉強することができました。武藤先生からは回復期における脳血管障害患者を中心とした身体機能・活動性向上のためのチームアプローチやADLの阻害因子となる麻痺側上肢の痛みについて、研究成果・取り組みをご紹介いただき、臨床の中で応用できるよう、熱心に皆さん聴き入っていました。

 シンポジウムの最後には、呼吸・循環器疾患の重症患者における具体的なリスク管理や座位練習の方法、不活動によって生じる疼痛への対処など、会場との活発な意見交換もあり大盛況の中、充実したセミナーが終了しました。今年度の卒後セミナーは、廃用症候群に対する理学療法に関して、急性期・回復期・維持期それぞれの視点から、全身的な評価・アプローチを考える良い機会になり、症例ごとにいかに工夫して廃用症候群を予防し、効果的な運動負荷を与えていくかを再考することができる有意義な内容であったと思います。またの機会にぜひ、大川先生をお招きしてこのようなシンポジウムが開催できる日を楽しみにしています。今回の卒後セミナーの内容は、理学療法探求第14巻に掲載される予定です。(文責:広報部 下迫 淳平)