日時:平成16年3月6日(土)
場所:長崎大学保健学科
パネルディスカッション
テーマ:関節可動域障害の病態とその治療法を再考する
オーガナイザー:沖田 実 先生 (長崎大学医学部保健学科, 2期生)
パネリスト中野 治郎 先生 (井上病院, 9期生)
茂田 久美子 先生 (寺沢病院, 3期生)
横山 茂樹 先生 (長崎大学医学部保健学科, 1期生)
松本 真一郎 先生 (長崎北徳州会病院, 4期生)
平成16年3月6日、長崎大学医学部保健学科にて、平成15年度、長崎大学理学療法学同門会卒後セミナーが開催されました。テーマは、「関節可動域障害の病態とその治療法を再考する」ということで、オーガナイザーの沖田先生、パネリストの中野先生、茂田先生、横山先生、松本先生の5人の卒業生の先生方によるディスカッションが繰り広げられました。
-オーガナイザーの立場から-ということで、長崎大学医学部保健学科の沖田実先生よりROM制限の概念の再確認、筋収縮の影響と軟部組織の変化にも続いた病態像ということで火蓋が切られました。
現在の拘縮の定義は軟部組織の器質的変化に基づいたROM制限であり、理学療法士が臨床で治療しているROM制限の多くは筋収縮が加味された結果と捉えるべきです。したがってえROM制限の治療においては、まず筋収縮を取り除いてマルハダカにし、軟部組織の変化といった拘縮の本態に直接治療できる環境に持っていくことが重要であるということでした。
軟部組織のうちでは、拘縮の発生初期の主要因は筋線維の短縮、それから筋膜や関節包を構成するコラーゲン線維に変化が生じる時期からは拘縮が著明になるということでした。
井上病院の中野治郎先生から、「振動刺激を利用した関節可動域制限の治療」ということで話題提供がありました。
骨折の術後などのケースにおけるROM制限の因子には筋緊張が関わっていることが多く、筋緊張を適切に抑制できれば、ROM拡大の即効果が期待できるということです。その治療法として、振動刺激があります。ここでは右コーレス骨折後、右上腕頚部頚部骨折の症例を通じて振動刺激を利用したROM治療の効果と原理について説明が行われました。
寺沢病院の茂田久美子先生からは、「関節可動域障害を伴う中枢神経疾患患者の治療」ということで、CVA片麻痺患者様の症例について、ビデオを交え、説明が行われました。
中枢神経疾患患者において、関節可動域制限、動作遂行できない原因には、(1) 神経原性要素 (neural factors) : 異常な姿勢緊張持続(低緊張・過緊張)、運動障害 (2) 非神経原性要素 (non-neural factors) : 筋そのものの変性 (粘弾性・短縮・拘縮)が考えられ、これらはコインの裏表であり、その両方に対してアプローチする必要があるとのことでした。
二次障害である筋の粘弾性の低下、短縮、拘縮による可動域制限を改善、加え姿勢緊張を動きの中で整えながら、運動を繰り返し行い、フィードバック→フィードフォワードへ運動遂行できるよう自ら活動的に動いていけるようアプローチを行う必要があるとのことでした。
長崎大学医学部保健学科の横山茂樹先生からは、「筋」をキーワードに、整形外科疾患を中心にROM制限の捉え方とアプローチについて紹介いただきました。
疾患別におけるアプローチとして、肩関節周囲炎では、第2肩関節における上腕骨大結節の通過障害、筋の過緊張・靱帯の癒着や瘢痕化による上腕骨骨頭の位置異常、腱板を構成する筋の収縮不全等、発生要因を整理し、アプローチとして圧迫を利用したストレッチの方法など、紹介ありました。変形性膝関節症では、内反変形の構成要素を紹介、下腿外旋の要因として膝関節周囲の筋自体にもんぢあを生じており、隣接する筋腱にも影響する報告がある。よって、筋個別のみでなく、隣接する筋間の相互関係も考慮したアプローチが必要であり、その一手段としてISRを紹介がありました。
長崎北徳州会病院の松本真一郎先生からは、関節運動学的アプローチ(AKA)の治療対称である、関節包内軟部組織の癒着、短縮、筋腱の短縮などのお話がありました。
関節包内運動の異常、障害は関節包外の骨の運動に影響を与え、逆に神経系、筋・腱など関節包外の異常により関節包内運動が障害される。よってこれら両運動を同時に考慮しなければならないとのことでした。
また、ビデオを交え、症例における歩行練習の治療風景の紹介もございました。
5人の先生のお話の後、フロアーの卒業生の先生も交え、活発なディスカッションが繰り広げられました。最終的に、関節軟部組織、筋、腱各々単独ではなく、「筋腱移行部」をキーワードに、それぞれの相互関係を考慮したアプローチが重要であるということが印象的だったと思われます。
最後に、5人の先生をはじめ、ここまで行き届いた準備をしていただいた先生方、フロアーに参加された先生方、お疲れ様でした。